医療者から親御さんへのメッセージ

楽しい食事にするために
―子どもの摂食嚥下障害への対応―

 

つばめの会顧問 田角 勝
(昭和大学医学部小児科教授)

 

 

1.子どもの摂食嚥下障害の特徴

子どもにおいて始まった摂食嚥下機能障害への対応は、成人に広がり、摂食嚥下障害の話は高齢者を中心になされることが多くなりました。成人と子どもの相違は大きく、子どもの支援には、子どもの摂食嚥下障害の特徴を理解することが必要です。

  1. 発達期にある子ども:成人との最大の違いは、子どもが発達することです。したがって高齢者は現在の状態の維持あるいは元の状況への回復が目標となりますが、子どもは発達を促すことが必要になります。そのための新しい経験を積んでいくことが必要になります。
  2. 栄養と成長:子どもの身体は発育期にあたるので、基礎代謝や活動や発育のためのエネルギーが必要です。そして栄養必要量・バランス、ビタミン・ミネラルや微量元素などを考慮します。しかしながら基礎疾患や合併症のある時の栄養必要の推定は、大変に難しいものです。
  3. 基礎疾患・合併症と全身状態:摂食嚥下障害の病態とともに、基礎疾患や合併症を考慮しなければなりません。摂食嚥下機能に及ぼす直接的な影響としては、口腔形態の問題や嚥下に関与する中枢・末梢神経の障害などがあります。間接的な問題としては、全身状態が悪いと摂食嚥下機能の低下につながります。したがって、摂食嚥下機能を診るだけではなく、基礎疾患・合併症や日々変わる全身状態を評価できることが大切です。
  4. 軽症から重症児まで:子どもの摂食嚥下障害には少食などの日常生活にみられる問題から、経管栄養が必要な場合まで幅広い問題が含まれます。それぞれの重症度を考慮した上で計画を立てます。
  5. 子育ての中での、摂食嚥下障害への対応:乳幼児期の対応は、子育ての中で行うことになります。そのため子どもの摂食嚥下障害の対応は、育児と切り離せません。食べることは子どもにとって生活の中心であり、コミュニケーションや社会性などを獲得していきます。保護者にとっては食べさせることが育児の中心となります。

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2.小児の摂食嚥下障害の評価

子どもの摂食嚥下障害の評価は、まず基礎疾患や合併症や全身状態の評価が必要になります。その上で安静時や少量の食物を食べたときの状況を観察し評価します。ビデオ嚥下造影検査は、必要に応じて検討します。

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3.摂食嚥下障害の対応

1)トータルケアとしての摂食嚥下機能支援

摂食嚥下障害の支援は、上手に食べさせることや食べる量を増やすことを考える前に、子どもが食べることを楽しめることが大切です。それにより食行動が拡がり、社会性やコミュニケーションなどの子ども全体の発達が促されます。“食べる”ことは、毎日繰り返される生活であり、支援計画を立てるときは、食事を訓練の時間にしないことです。摂食嚥下機能療法は摂食嚥下機能向上のためだけのアプローチではなく、楽しく食べることを通した生活や成長・発達の支援です。必要な栄養摂取をして、安全のために誤嚥を回避し、さらに基礎疾患や合併症などを総合的に考えて子どもに適した目標を設定することで、摂食嚥下機能の促進を図ります。

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2)食べる意欲を育てる

摂食嚥下機能療法においては、子どもとともに保護者や介助者も食事を楽しめる時間にしていくことが必要です。どうしても技術的な対応法に注目が集まりますが、基盤となる身体や行動・心理面も含めた総合的な支援が大切です。また支援する場合は、何でも介入すればよいということではありません。不必要な介入は自立を阻害します。摂食嚥下機能療法を頑張ったために食事を楽しむことができない状況では、機能を促すことはができません。子どもが嫌がるような“摂食訓練”は不適切であり、無理に頑張って多くの量を食べさせても、次のステップにつながりません。

食事の基本は食べさせてもらう技術の向上ではなく、自分で食べる気持ちを育てることです。身体的な理由からの摂食嚥下機能障害で、自分で食べることができない場合もあります。それでも子どもが自分で食べることを支援することが大切な理由は、自分で食べたいという意欲が、手や体を動かそうとすることにつながり、摂食嚥下機能を最大に発揮することにつながります。摂食嚥下機能に相違はあり対応法は異なりますが、重症児であっても基本的な考え方は同じです。

そのための支援は機能的な面に加えて、子どもの意思にどれだけ配慮できるかということになります。介助者が良いと考える姿勢や食物形態を子どもに押し付けることではなく、子どもの状況に応じて柔軟に対応することです。それは上手に食べることではなく、食事と楽しむための支援につながります。

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3)摂食嚥下機能支援の基盤

摂食嚥下障害のある子どもが楽しく食べるためには、基礎疾患や合併症を持つことが多いので、体調不良などの阻害する要因を排除することが必要です。そして安心できる環境において、空腹や食欲を引き出す感覚刺激が加わることです。このような状況を整えることにより、最大の摂食嚥下機能を発揮できます。

安心できる環境:食事は安心できる場所であることが大切です。あまり気が散らない環境が適し、皆で食卓を囲むような、食事への適度の意識が望まれます。

介助者との信頼関係:食事は信頼関係やコミュニケーションを育てる時間であり、食事時間がたくさん食べさせるための戦いとなってはいけません。摂食嚥下障害がある場合は、保護者が栄養を摂らせねばならないという意識が強くなり、摂取量が少しでも減ると不安になり、子どもに食事を強要することにつながります。上手にたくさん食べさせようと思えば思うほど、子どもにも介助者にもストレスがかかります。過度の心配や不安は、過保護や溺愛や否定的な気分になることもあり、子どもが安心できる対応につながりません。

生理的欲求:空腹でなければ他の条件を整えても、食べる機能を十分に引き出せません。その空腹を引き出すためには体調や環境も重要です。子どもが空腹のサインをしっかり出すわけではないので、小さなサインを感じとることが必要です。

食べる意欲:自分で食べようとする意欲を育てる。摂食嚥下障害のある場合は、“食べさせてもらう”“食べさせてあげる”という関係になりがちです。このようにならないためには、乳児期から子どもの食べる意欲を引き出すことです。

呼吸と筋緊張のコントロール:重症児においては、呼吸と筋緊張のコントロールは重要であり、それぞれの障害に合わせて適切な姿勢をとる必要があります。

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4.摂食嚥下機能支援をいつから始めるか

多くの摂食嚥下障害は乳児期以前におこり、支援はなるべく早い時期から始めたいものです。しかし、不適切な対応が早期から行われると問題は大きくなります。最初の支援は摂食嚥下障害についての正しい理解することが、後の摂食嚥下機能を促すための考え方の基盤を作ります。摂食嚥下機能は基礎疾患や全身状態との関わりが大きく、摂食嚥下機能に対する理解ということではありません。

機能療法を早期から行うことが早期支援ではなく、基礎疾患や育児や生活の中に対応を組み込み、それぞれの年齢と病態に応じた対応を行うことです。全身状態が悪い時は、食べることには何もしないことが最も良い場合もあり、体調がよくなった時のための準備をすることになります。特に大切な乳児期の支援は、摂食嚥下障害の原因や病態の理解と子どもが食べることが楽しいという感覚を育てることです。重症度によって支援計画は異なりますが、食べることの基本的な考え方は同じです。

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5.口腔周囲の過敏と除去

口腔および口腔周囲の評価において、感覚刺激に対して嫌がることをしばしば過敏と評価されています。口は外界と体内がつながる場所であり、食べる時に危険な物を見分けて敏感に回避することが必要です。すなわち口腔周囲を触れられて嫌がることは当然です。乳児が口腔内に入れるもので警戒しないものは、母の乳首や自分の指に始まります。指しゃぶりや玩具を口に持っていくことはできるが、スプーンなどを拒否する子どもは、不慣れなことを嫌がっているのです。子どもが嫌がる反応を減らすには、無理にそのような刺激を入れずに、自分で食物などを口に持っていくことの経験することです。そして食事の楽しい経験を積むことが、食物に対する興味を引き出します。

口腔周囲の触覚刺激や歯肉マッサージは、多くの子どもが嫌がるので適応は限られます。嫌がる子どもの口腔周囲を無理に触れることは、外からの触覚刺激の受け入れを悪化させます。口腔の刺激を嫌がる場合は、遊び、入浴などの日常生活を通した様々な感覚刺激の受容を促すことです。そのために味覚、嗅覚、触覚、視覚、聴覚などから、楽しい感覚を入力します。

重度の摂食障害のある場合の歯肉マッサージは、口腔ケアにつなげる目的で行います。このような場合は、食べるための能動的な動きを引き出すことが目的でなく、口腔ケアにより誤嚥性肺炎の予防し健康管理に役立てます。

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6.口唇介助や筋訓練について

口唇が閉鎖できることは、摂食嚥下機能において重要なことです。姿勢や食物形態や道具の工夫により閉鎖しやすい状況をつくります。姿勢は安定した状態を保てることが大切で、頭頸部の適切な支持や介助で口唇や顎の動きを引き出します。食べること以外にも子どもが口唇閉鎖をする動作には、指しゃぶりや玩具をなめることやストローや玩具のラッパを吹くなどがあります。このような食事の時間以外に口唇閉鎖することができるならば、食事中にその機能を引き出し、口唇閉鎖につながることを目指します。

口唇閉鎖が不十分であると、その対応として口唇を介助して口唇閉鎖を促すことがしばしば行われます。しかし、食事中の口唇の介助は、不快なことであり食事の意欲を減らします。介助の基本は、子どもの動きをコントロールすることではなく、動きを引き出すことです。口唇閉鎖ができないという同じ状況であっても、筋緊張の亢進や筋力低下や知的障害などにより対応が異なります。筋力が低下するような疾患では、低下した筋力を補うための適切な姿勢や顎の介助を行うことが必要になります。

成人では口腔周囲の筋を動かす嚥下体操などが行われ、摂食嚥下機能の維持や改善に有効です。子どもでも筋肉は使われないと萎縮するので、自ら口腔周囲の筋を動かすことは大変よいことです。しかし、ほとんどの子どもは指示に従って口腔周囲の筋肉を動かす事はできません。行えることは周囲に外から力を加え、その抵抗で筋肉は動かすことになりますが、それでは口を使うことを楽しめません。それよりも食べること以外の笑う、泣く、声を出すことなどで口腔周囲の筋肉は動かし、口や顔を使う指しゃぶりや玩具をなめる遊びなどを楽しむことで、筋肉の運動を引き出すことにつなげます。

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7.重症児の摂食指導

基本的に食べることは楽しいことですが、基礎疾患や摂食嚥下障害があるために食事が楽しいといえないこともあります。さらに誤嚥や誤嚥性肺炎で入院を繰り返す場合は、食べることが苦痛になります。そのような場合は経口摂取を回避することが、子どもの生活の質の向上につながります。食べることは子どもの生活に重要なことですが、食べることが楽しいことにつながらなければ、経管栄養や胃ろうからの注入による栄養補給も選択肢となります。その上で一口の味や香りを楽しめることにつなげます。

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8.おわりに

子どもは発達期にあり、現在の状況を維持することが目標ではありません。子どもは機能の向上ために適切な経験を積み重ねることが必要で、その支援は子どもの能力を引き出すことです。そのためには子どもの行動を観察し、発達、評価をして、支援することです。そして対応法に迷うときは、自分たちがおいしく感じる食事は何かを考えることです。

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表 摂食嚥下障害の重症度を考えるための目安

所見 目標 対応
口唇閉鎖

唾液の飲み込み

指しゃぶり

おもちゃなめ

軽症~

中等症

自分で食べるための支援 手づかみ食べの促進※
中等症

~重症

× 介助による食事 上手な介助
重症 ×~△ × 経口摂取困難 胃瘻など

※手づかみできるような食物(固形物)を与えることが必要
○はできる、△はある程度できる、×はできない

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