保護者のみなさんへ 弘中 祥司

まわりを巻き込み、
楽しく食べることを目指して

食べること・飲み込むことの悩みは、
医療機関に相談を

食べることに困っている親御さんの悩みはさまざまであると思います。このホームページを訪れてくださった方の中には、毎日の食事の度に、肺炎にならないかと心配になったり、今日も食べてくれなかったと落胆したり、また、散らかすだけ散らかして食べないお子さんを目の前にいらいらしている方もいるかと思います。さらには、ずっと状況が変わらないお子さんの将来を、このままだったらどうしようと途方に暮れている方もいるかもしれません。
私どもの摂食外来には、そんな親御さんが全国からいらっしゃいます。お話を聞いただけで泣いてしまう親御さんにも、多く出会いました。そこまで追い詰められてしまう前に、まずは、ぜひ誰かに相談してください。
残念ながら、お子さんの食べること・飲み込むことの障害(摂食嚥下障害)を取り扱う専門の医療機関はまだまだ少ないのが現状です。ですから、まずは小児科の主治医に相談するのが最も良いかと思います。全身状態、栄養状態、成長発達を診てもらうのが重要です。特に、嘔吐が激しい、体重が増えない・減少している、元気がないなどの場合にはすぐに小児科を受診する必要があります。
また、お口の形や噛むなどの機能の問題が関係している場合もありますので、かかりつけの歯科の先生に相談するのもよいでしょう。それ以外にも、外来の看護師さんや保健所の保健師さん、療育施設の職員の方に相談するのもいいかもしれません。
ただ、保育園や療育施設などの福祉施設だけで対応するのは難しいかと思いますので、必ず医療機関と連携を取りながら、対応していくことが重要です。

大切なのは“楽しく食べること”

食べることに関する悩みは多岐に渡りますので、実際にお子さんを診てみないと、対応方法については多種多様なので診察しないと何とも言えません。しかし、どんなケースにも共通していることがあります。それは、楽しく食べることです。そんなことはもう何百回も聞いたといわれるかもしれません、しかし、単純ですが、これが最も重要です。
では、楽しく食べるためには、どうするか? まずは、無理に食べることをやめましょう。泣いてまで、食べる必要はありません。経管栄養を併用しているのであれば、経管栄養を利用しましょう。食べることは生活の一部です。つらくて大変な訓練は必要ありません。
次に、自分で食べる環境を整えてあげましょう。手の機能や食べる機能などにもよりますが、手づかみで食べられる物を用意する、自分で飲めるストローマグなどの道具を用意してあげましょう。自分ですること、できることが食事の楽しさに繋がっていきます。
そして、最後に、これが一番難しいかもしれませんが、ぜひ、親御さんが楽しそうにしてください。

多くの人を巻き込んで、
楽しく食べることを目指す

そのためにも、まず脱水にならないかなどの医学的な心配事は、医療機関に相談しましょう。ぜひそこで、最低限の水分量、熱量などを教えてもらうと、安心されるかと思います。
今日は食事をあげる元気はないから、食事は経管栄養だけという日があってもいいのです。訪問看護師さんが来るから、ちょっといつもよりがんばってみようという日もあるかもしれません。親御さんにだって、がんばれる時とがんばれない時があって当然です。
ぜひ、お子さんに関わる多くの人を巻き込んで、楽しく食べることを目指しましょう。きっと、私たちの外来の親御さんたちがそうであるように、何か月、何年か後には、あの時あんなに困っていたのにと、笑いながら過ごしていることと思います。

つばめの会顧問 弘中 祥司

(昭和大学歯学部スペシャルニーズ口腔医学講座 口腔衛生学部門 教授 )

略歴

1994年 北海道大学歯学部歯学科卒業
2001年 昭和大学歯学部口腔衛生学教室 助手
2006年 昭和大学歯学部口腔衛生学教室 准教授
2013年 昭和大学歯学部スペシャルニーズ口腔医学講座 口腔衛生学部門 教授
昭和大学口腔ケアセンター長(兼任)、昭和大学歯科病院スペシャルニーズ歯科センター長(兼任)、日本障害者歯科学会理事長,国際障害者歯科学会(iADH)前理事長、 日本摂食嚥下リハビリテーション学会理事、 日本歯科医学会理事,日本小児歯科学会理事

著書

・才藤栄一・植田耕一郎監,出江紳一・鎌倉やよい・熊倉勇美・弘中祥司・藤 島一郎・松尾浩一郎・山田好秋編:摂食嚥下リハビリテーション 第3版.医 歯薬出版,2016
・日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会:発達期摂食嚥下障害児(者)のための嚥下調整食分類 2018.日摂食嚥下リハ会誌 22(1):59–73, 2018