子どもの食べる意欲を育て、
食べる力を引き出す
子どもの摂食嚥下障害の特徴
子どもにおいて始まった摂食嚥下機能障害への対応は、成人に広がり、摂食嚥下障害の話は高齢者を中心になされることが多くなりました。成人と子どもの相違は大きく、子どもの支援には、子どもの摂食嚥下障害の特徴を理解することが必要です。
成人との最大の違いは、子どもが発達することです。成人や高齢者は、現状維持もしくは元の状況への回復が目標となりますが、子どもは発達を促すことが必要になります。したがって、そのための新しい経験を積んでいくことが必要になります。
子どもの摂食嚥下障害への支援
子どもの摂食嚥下障害の支援は、上手に食べさせることや食べる量を増やすことを考える前に、子どもが食べることを楽しめることが大切です。それにより食行動が拡がり、社会性やコミュニケーションなどの子ども全体の発達が促されます。
“食べる”ことは、毎日繰り返される生活です。そのため、食事を訓練の時間にすべきではありません。摂食嚥下機能療法は、摂食嚥下機能向上のためだけのアプローチではなく、楽しく食べることを通した、生活や成長・発達の支援です。
摂食嚥下機能療法では、どうしても技術的な対応法に注目が集まりがちですが、身体や行動・心理面を基盤とした、総合的な支援が大切です。
子どもが自分で食べる気持ちを育てる
支援する場合は、何でも介入すればよいということではありません。不必要な介入は自立を阻害します。摂食嚥下機能療法をがんばったために食事を楽しむことができない状況では、機能の発達を促すことができません。
子どもが嫌がるような“摂食訓練”は不適切であり、無理にがんばって多くの量を食べさせても、次のステップにつながりません。
食事の基本は、食べさせてもらう技術の向上ではなく、自分で食べることの獲得が重要です。身体的な理由からの摂食嚥下機能障害で、自分で食べることができない場合もあります。それでも、子どもが自分で食べることを支援するのが大切です。その理由は、自分で食べたいという意欲が、手や体を動かそうとすることにつながり、摂食嚥下機能を最大に発揮することにつながるからです。
食事は楽しむことが大切
摂食嚥下障害のある子どもが楽しく食べるためには、基礎疾患や合併症を持つことが多いので、体調不良などの阻害する要因を排除することが必要です。そして安心できる環境において、空腹や食欲を引き出す感覚刺激が加わることも必要となります。このような状況を整えることにより、最大の摂食嚥下機能を発揮できます。
そのための支援は、機能的な面に加えて、子どもの意思にどれだけ配慮できるかということになります。介助者が良いと考える姿勢や食物形態を子どもに押し付けることではなく、子どもの状況に応じて柔軟に対応することです。それは上手に食べることではなく、食事を楽しむための支援につながります。
保護者や介助者にとっても、食事を楽しめる時間にしていくことが大切です。乳幼児期の摂食嚥下障害の対応は子育ての中で行うため、食べさせることがうまくいかないと、保護者にとってもストレスとなります。
重症児にとっても食べることが楽しくなるように
重症児であっても、基本的な考え方は同じです。食べることは本来、楽しいことですが、基礎疾患や摂食嚥下障害があるために、楽しいとは感じられないこともあります。さらに誤嚥や誤嚥性肺炎で入院を繰り返す場合は、食べることが苦痛になります。そのような場合は経口摂取を回避することが、子どもの生活の質の向上につながります。
食べることは子どもの生活に重要なことですが、食べることが楽しいことにつながらなければ、経管栄養や胃ろうからの注入による栄養補給も選択肢となります。その上で、一口でも味や香りを楽しめることにつなげていきます。
子どもの能力を引き出し、発達を支援する
子どもは発達期にあり、現在の状況を維持することが目標ではありません。子どもは機能の向上ために適切な経験を積み重ねることが必要で、その支援では、子どもの能力を引き出します。
そのためには子どもの行動を観察して、発達を支援することです。そして対応法に迷うときは、自分たちがおいしく感じる食事は何かを考えることです。
つばめの会顧問 田角 勝
(昭和大学医学部小児科教授)
略歴
1978年 昭和大学医学部卒業、昭和大学医学部小児科前期助手
1980年 関東労災病院小児科
1981年 神奈川県立こども医療センター神経内科
1983年 昭和大学医学部小児科助手
1988年 昭和大学医学部小児科講師
1997年 せんぽ東京高輪病院小児科部長
2003年 都立北療育医療センター城南分園園長
2005年 昭和大学医学部小児科助教授
2006年 昭和大学医学部小児科学講座教授著書
・田角勝, 向井美恵: 小児の摂食嚥下リハビリテーション. 第2版, 医歯薬出版, 2014
・田角勝: トータルケアで理解する子どもの摂食嚥下リハビリテーション-食べる機能を支援する40のポイント-. 診断と治療社, 2013