医療福祉関係者の方へ 綾野 理加

食べることが難しいお子さんと保護者に何ができるか

食べることが難しい子どもに出会ったら

子どもにとって食べることは、栄養摂取して身体を作り生命維持することのみならず、食べる・話すなどの口腔機能を促すこと、お友達などと社会生活を営む手段であることといった、さまざまな意味を持っていると思います。
しかし、先天性の疾患や食事に興味がないなどの理由で、大人が思うような食事を摂ることが難しい子どもがいます。そのようなお子さんにお会いした時、みなさんはどのような対応をなさっていますか?
病気だから仕方がない、そのうち食べるようになる、理由はわからない、この訓練をすれば食べられる、これをしないと食べるようにならない……。
そのお子さんの、食べることの難しさの理由をみつけることなく、こうしたことをおっしゃっていないでしょうか。

食べることが難しい子どもへの対応は多様

私は現在7箇所の医療機関で、食べることが難しい子どもの、食べることの診断と指導に携わっています。低体重で生まれ未熟性により食べられないお子さん、先天性の疾患で食べることが難しいお子さん、長期間の経管栄養により経口摂取のチャンスがなく食べることに興味がないお子さんなど、さまざまなお子さんにお会いしています。
私は恩師の金子芳洋と向井美惠が障害児の摂食嚥下障害を専門としていたこともあり、卒後お会いするお子さんは、脳性麻痺やダウン症などの疾患のため、食べる機能を獲得することが難しい方々が多かったと思います。
次第に、小さく生まれて哺乳や食べることができない、食べることに興味がなく食べることができない、といった主訴を持つお子さんにお会いするようになりました。
Pre-feeding Skillsの著者Morris先生、Pediatric Swallowing and Feedingの著者Arvedson先生などの研修会で、哺乳障害を含めた子どもの食べることに関して学び、Food Chainingの著者Fraker先生方やSOS (Sequential Oral Sensory) Approach代表のKay先生方の研修会で、食べない、食べたくない子どもについて学びました。
食べることが難しい子どもへの対応は、口腔機能の発達を知ることのみならず、全体の発達を踏まえた対応、子どもの食べることへの興味を引き出すことなど、多様な考え方で臨まねばならないことを学びました。

お子さんに何ができるか、興味を持って

病気があるから、そのうち食べるようになるから、では保護者の不安は払拭されないように思います。摂食機能訓練と呼ばれるものを行えば食べることができるようになるお子さんばかりとも限りません。
何がその子どもの食べることを邪魔しているのか、機能的なことなのか、食事への興味の不足かなどの原因をみつけ、どのように対応したらよいか、その対応法にはどのような理由があるのかを、保護者や子どものまわりの大人に伝えることができる医療福祉関係の方々が増えることを望みます。
なぜならば、食べられない理由がわからない、食べられないから行っている訓練の意味がわからない、とおっしゃる保護者が少なからずいらっしゃるからです。

つばめの会の活動を通して、食べることにお困りのお子さんと保護者の方々がいらっしゃることを知り、子どもに関わる職域や場所で、そのお子さんに何ができるか、是非興味を持って考え、対応していただけたらと思う日々です。
おいしいものがたくさんあるこの世の中に生まれたのですから、どこでもどなたでも、そのお子さんの様子に合わせて、おいしく安全に食事を楽しむ機会を持てる世の中になることを願っています。

別記事へのリンク

ダウン症のお子さんの摂食指導で思うこと (つばめの会の活動報告ブログ)

 

つばめの会顧問 綾野 理加

(昭和大学小児成育歯科学講座 兼任講師)

略歴

1993年 昭和大学歯学部卒業
昭和大学大学院歯学研究科(口腔衛生学)入学
1995年 南フロリダ大学、Tampa VA Hospita留学
1997年 昭和大学大学院修了、歯学部長直属助手 口腔衛生学教室勤務
1998年 昭和大学歯学部助手
2004年 昭和大学歯科病院口腔リハビリテーション科へ出向
2007年 昭和大学歯科病院口腔リハビリテーション科へ異動
2010年 昭和大学退職
昭和大学小児成育歯科学講座兼任講師
2011年 岡山大学スペシャルニーズ歯科センター非常勤医員
あやの歯科医院勤務(2019年3月閉院)
2019年 東京医科歯科大学歯学部口腔保健専攻非常勤講師

著書

・伊藤公一ほか編:歯と口の健康百科.医歯薬出版,1998
・向井美惠編:乳幼児の摂食指導 お母さんの疑問に答える.医歯薬出版,2000
・金子芳洋,向井美惠編:摂食・嚥下障害の評価と食事指導.医歯薬出版,2001
・M.Groher・M.Crary著,高橋浩二監訳:Groher&Craryの 嚥下障害の臨床マネジメント.医歯薬出版,2011
・日本摂食嚥下リハビリテーション学会:小児の摂食嚥下障害.医歯薬出版,2015
・綾野理加:小児の摂食障害—機能・行動の両面から.臨床栄養129(5),647−655,2016
・綾野理加:食べられない子ども.地域リハビリテーション11(7),442−446,2016
・金子芳洋他監修:子どもの食べる機能の障害とハビリテーション、医歯薬出版